「どうしてもスタートがうまくいかない」

大会を一週間後にひかえ、高校では陸上部に所属している塾生の一人が悩んでいました。中学時代からスタートだけは苦手。スタートさえうまくいけば、記録はあと0.5秒は縮められるのに。自分で弱点はわかっているけど、どうにもならない。

そこで、その塾生はどうしたのか?

仲間たちに頼んで、スタートのどこがおかしいのかを率直に話してもらい、新しいスタートの形を指導してもらったそうです。自分でやってみても、スタートのしやすさが全然違う。何よりもタイムが縮まったというのです。仲間には感謝しても感謝しきれないと、その塾生は話していました。

自分のことは自分が一番よく知っている。そう思っていても、実は自分が一番知らないことがほとんどです。自分の無知を知ることが、真実を知ることの第一歩だと説いたのは古代ギリシャのソクラテス。この、2000年以上語り継がれてきたことは、まさに勉強にも通じます。

「自分は英語が得意です。自信あります」という生徒が体験授業に来ると、論塾恒例の英語音読練習でたいてい苦戦しています。範囲が決まっている学校の定期テストでどんなに優秀でも、その範囲を少しでも越えたら手も足も出ないというのは、本当の実力とはいえません。

保護者でも同様です。以前、私は中学3年生の指導において、保護者面談でこう言われたことがあります。

「先生は○○高校がいいと言ってくれるけれど、絶対に無理です。私はあの子の母親です。あの子のことは、世界で誰よりも知っているんですっ!」。

お母さんはドアをぴしゃっと力強くたたきつけるように締めて出ていきました。しかし、実際にその生徒はもちろん(!)第一志望である都立の独自問題作成校に合格しました。合格発表のあと、本人のほか、お母さんが恥ずかしそうに報告に来てくれました。

また、あるお母さんからは、こう言われました。

「あの子のことは先生よりも知っています、母親ですから。あの子はいつだって男子とうまくやってきました。むしろ女の子と合わないようです。あの子は絶対に共学向きです。女子校に合うはずがありませんっ!」

もちろん(!)その生徒は女子校に入り、同性だけの気兼ねしない雰囲気のなか、のびのびとした高校生活を満喫。その居心地のよさに、大学も女子大を選びました。

自分のことは、自分が一番よく知っている。それは思い上がりに過ぎません。あなたは、自分の背中にある『ほくろ』の数を知っていますか?

同じように、わが子のことは、親が一番よく知っているというのも、いささか自惚れかもしれません。

自主自立を重んじて、『独学』を指導している論塾ですが、講師はだれよりも塾生のことを見ています。お母さんの気づかない面も見ています。一人ひとりの塾生をよく見て、その塾生に合った教材と教え方を選び、日々向き合っています。なによりも、勉強をつうじて成長していく主人公は塾生自身です。