中学受験をめぐる2人

hiroshige

中学受験について、とても対照的な2人の中学生がいます。受験をするか迷いながらも、結局は公立中学校へ進学したものの少し後悔しているAくん。第1志望は不合格でも私立中学校に進学し充実した中学校生活を送るB君。そんな2人を追いました。

姉がした苦労をさけるために中学受験を視野に。

青梅市在住のAくん。受験コースではないものの、地元では大きく展開している学習塾に通っていて、学校でも優秀な小学5年生でした。当時、地元の公立中学校の3年生だったお姉さんが部活と勉強の両立ができず大苦戦。高校受験も失敗に終わりました。それでお母さんはAくんの私立中学受験を思い立ったのです。

たまたまテレビで知ったのが、難関大学にも多数合格者を出している多摩地域の私立中高一貫校。共学ながら理数教育にとても力を入れていて、面倒見がいい校風も魅力的でした。

しかし中学受験をするならば、すくなくとも6年生の1年間は受験勉強に専念しなければなりません。学習塾とは別に通っている英検道場で目標としている、小学生のうちに3級(中学3年程度)を取得することも、あきらめなくてはなりません。ずっと続けている地元のサッカークラブも辞めなければなりません。

受験よりも、友だちを優先したい

親子でじっくり相談した結果、やはり中学受験は断念することにしました。

一番の理由は、私立中学に進学すれば、地元の公立中学に進学する仲の良い友だちと別れなくてはならないことにAくんが我慢できなかったのです。お母さんは仕事に、Aくんはサッカーに忙しく、その私立中高一貫校の説明会への参加を先送りにしてしまったのも事実で、中学校生活のイメージもなかなかわきませんでした。

その代わり、小学校の卒業までに英検3級に合格すれば、中学校に入ってからの負担が減り、高校受験にもプラスになるはず。Aくんもお母さんもそう自分に言いきかせました。

意欲ある仲間にもまれたい

もう一人、こちらも青梅市在住ですが別の小学校に通っていたB君。長男であるB君は、もともと中学受験は一切考えていませんでした。ご両親ともに公立中学校出身なので、地元の中学校に通うのが当然だと考えていたのです。

しかし小学4年生のとき、授業公開に足を運んだご両親が愕然としました。担任教諭が教える算数があまりに薄っぺらいのです。B君自身も、意欲のない仲間たちが授業を妨げたり、発言するB君を冷やかしたりするのに疑問を持っていました。学年が進むにつれて、地元中学校が荒れているという話も耳に入ってくるようになりました。

そこで、まずは自分の目で確かめてみようと、都区内にある私立中高一貫校の説明会に親子で足を運んでみました。男子校らしく、意欲ある生徒どうしで活発に議論しながら数学の問題を解く授業。10万冊以上の蔵書数を誇る図書館。何よりも学校説明会の場で、理科教師が楽しそうに披露してくれた理科の実験にB君は心を奪われました。13~18歳という多感な時期にこのような充実した中学・高校生活が送れる学校の存在を、保護者も初めて意識しました。こうしてB君は中学受験をしようと決意したのです。

あいつがオレの足をひっぱる

2年後…。Aくんは目標どおり6年生で英検3級を取得。過去問や予想問題などのパターン学習が中心で、正直なところ、あんまり英語が得意になったという実感はありません。予定どおり、姉が卒業した地元の公立中学校へAくんも進学し、バスケットボール部に入りました。学校の成績は悪くありませんが、部活に夢中なので、決して良いともいえないかもしれません。

しかしお姉さんに聞いていた以上に中学校は荒れています。部活動が人間関係の中心となった現在、小学校時代の友だちは別の部活に入り、あまり口をきかなくなりました。そんなかつての友だちが悪い遊びを覚え、授業中も出歩いたり騒がしかったりと、落ちついて勉強できません。一緒の中学校に行けるねと喜んでいた幼なじみが授業中に騒ぎ出すと、好きなはずの英語でさえも勉強する意欲が失せてしまうのです。そんな雰囲気にもしだいに慣れてしまい、友だちとも一緒に騒ぐほうが楽しくなりました。ついには勉強よりも部活を優先する毎日に。

「部活を一生懸命にやっているんだから、別にいいじゃん。中3になったら勉強するよ」

そんなAくんを見て、お母さんは後悔してしまうそうです。

「中学受験をすればよかった…」

受験勉強は大変。でも、勉強だけしていても成績は上がらない。

もう一方のB君。正直いって受験勉強は大変でした。学校から帰宅し、まず宿題をやってから、毎日のように塾へ通う日々。模擬試験でも思うような結果が出ず、志望校の合格判定も20%に満たないときもあり、落ち込んでしまったこともあります。6年生になり友だちが英語教室に通い始めたときには、僕だって英語を勉強してみたいのにと、やっぱりうらやましく感じてしまいました。

その一方で、お父さんいわく、勉強だけしていても成績が上がるわけがないと、小学校2年生から続けているスイミングスクールには小学校卒業まで通い続けました。夏休みには家族で海水浴にも行きました。塾に通っていても、夜は9時から10時の間に就寝することを最優先として、その分、朝6時に起きて漢字や計算練習をするようにしました。

私立ならどこでもいいというわけではない。あくまでも自分が本当に行きたい中学校に入り、意欲ある仲間たちと切磋琢磨しながら中学、高校生活を送ること。そんなご両親の方針もあり、実際に受験したのは2校だけでした。しかも憧れていた、あの自由な校風の第1志望校には不合格。それでも、もう一方の大学付属校には無事合格しました。

勉強は厳しい。でも、中学受験をしてよかった!

入学したその私立中学校では月曜日から土曜日まで授業があり、片道1時間以上かけて通学しています。公立中学校ではまず存在しないフェンシング部に所属し、帰宅も遅くなりますが、意欲のある同級生に囲まれ、質問やら別解が飛び交う授業は本当に楽しく勉強しています。

高校受験はありませんが、各教科ともカリキュラムの進みが早く、たとえば数学は中1の段階で公立中学校の中2レベルまで進みました。だから勉強は毎日欠かせません。それでも中学受験の準備で毎日勉強する習慣はついていますから、まったく苦になりません。中1の秋に、ためしに公立中学向け中2数学の模擬試験を受けてみました。すると出た偏差値は58でした。

英語は中学校に入ってからアルファベットを練習しはじめたほどでしたが、中1冬に英検4級(中学2年生程度)を取得。中2で3級が取得できました。小6のときに、中学受験をせずに英語教室に通っていたら、いまはこんなに伸びなかっただろうと自分でも感じています。中2で校内英語スピーチコンテストに出場し、6位入賞を果たしたいま、中3では優勝するぞというのがいまの目標です。

夢と方針ありきの中学受験

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<追記>2019年のふたり。

公開以来、反響が大きく、面談をする方や入塾生から「あのA君とB君はいま、どうなりましたか?」と尋ねられることもしばしば。そこで、ちょこっとだけお話しします。

大学付属の中高一貫校に進学したB君。実は、そのまま内部推薦で上がれたはずの大学へは進まずに、ある難関国立大学へ進学しました。自分が本当にやりたい勉強ができる学部・学科のある国立大学に、前向きな進路変更をしました。

本記で触れた英検は、中3で2級、高2で準1級に一発合格。 高3では、英語4技能試験の1つであるTEAPスコアが330を超えました。これは大学受験当時、TEAPを開発した上智大学の全学部全学科で英語試験が免除されるスコアです。

他方、公立中学校に進学したA君は、ある中堅都立高へ進学。英検は小6以来、一切受検していないとか。そして高校卒業後は、ある有名予備校に通いながら来春にもう一度、大学受験に挑むそうです。